すきとおるもの
もうすぐ昼に差し掛かるという時間に、ハクオロは朝堂で謁見をしていた。謁見の相手は、数品々のものを取り扱って全国を行脚しているチキナロである。
「この度はハクオロ皇の御生還、真におめでとうございます。はい」
「ああ、ありがとう。それにしても久しいな」
「ええ。真に」
「それで、今日はどんなものを持ってきたんだ?」
チキナロは前からハクオロに数色々の物を持ってきて、時に法外な値段の生物を買わされたこともあり、ハクオロは単刀直入に聞く。
「はい。それでは早速」
そう言ってチキナロは丁寧に珍しい紙に包装されたものを取り出して開いた。
「今回のお品はとある遺跡で見つかったというものでして、はい。こちらでございます」
「む、それは!!」
チキナロが包みから取り出したものは、以前ハクオロの顔に付いていた仮面にとてもよく似たものだった。
「チキナロ! それをどこで見つけたんだ!」
「申し訳ございませんが、出所は申し上げられません。はい」
ここの辺はさすがに商人といったところである。
「……それはどういうものか分かっているのか?」
ハクオロは少し真剣な表情で言う。
「ええ。これはハクオロ皇が以前つけていた仮面ととてもよく似たメガネでございます」
「…………なんだって?」
チキナロの言葉にハクオロは少し間の抜けた返事をしてしまった。
「こちらは、件の仮面とは外見良く似たものの、お品としては全くの別物でございましす。はい」
「そ、そうか」
その言葉聞いてハクオロは安心した。また誰かが古の悲しい実験の犠牲にならずに済んだと思ったからである。
「しかし、それならもう私には必要ないんだがな。この通り仮面も外れているしな。生憎、眼も悪いわけでもないしな」
「その通りでございます。はい。しかしこちらの品、少々普通のものとは異なる技術が施されていまして、はい」
「ん? それはどういうことだ?」
「実際にお使いになられればお分かりになられると思います」
そう言ってチキナロはハクオロに仮面型のメガネを渡す。
「それをおかけになって、ベナウィ様の方をご覧くださいませ」
ハクオロはそう言われて、メガネをかけて先ほどから傍で控えているベナウィの方を向く。
「……ブゥーーーー!! な、な、なんだこれは!!」
ハクオロは目の前に映る光景に思いっきり狼狽する。なぜなら目の前にいるベナウィが生まれたままの姿で堂々と前を全開にして立っているからである。
「聖上! いかがなさいました!」
ベナウィがハクオロに近づこうとする。が
「と、止まれベナウィ! 大丈夫だから! 止まれ!」
「は、はあ」
ハクオロに言われてベナウィは言うとおりに従う。
「こ、これは……一体」
「お分かりいただけたでしょうか?」
「ああ、し、しかしこんなものどうしようというのだ?」
「ふふふ、よくお考え下さいませ。これを付けて城内を歩けば……」
「城内を歩く? それがどうしたと………………はっ!?」
「お分かりいただけましたでしょうか。はい」
「…………いくらだ?」
「そうでございますね。お品がお品だけありますので……このぐらいかと」
そう言ってチキナロは値段を提示する。
「……少し高すぎやしないか?」
「そう言われましても、これだけの品そうそう手に入るものではございませんし、はい。……まあ今回は御生還の祝も込めましてこれぐらいでいかがでしょうか?」
「買った!!」
ハクオロは即答した。
「ありがとうございます。はい♪」
チキナロも満足そうに作り笑顔で返す。
「後このことは他言無用で頼むぞ」
「分かっております。はい」
二人が身を寄せ合って話込んでいるのをベナウィは「???」とわけもわからずに立っているだけとなった。
「わああ♪ ハクオロさんどうしたんですかその仮面?」
ハクオロが政務をしているとエルルゥがお茶を持ってきた。
(こ、これは想像以上に……)
ハクオロは早速、仮面メガネをつけて仕事をしていた。今は珍しく真面目に政務をしていたおかげかベナウィは席をはずしている。
「あ、ああ。今日ちょうどチキナロが挨拶がてらに品を届けてくれてな。久しぶりに付けなくなってしまってついつい買ってしまったんだよ」
「そうなんですか。でも、仮面を取ったハクオロさんも新鮮な感じで良かったですけど、やっぱり仮面があった方がなんだかハクオロさんらしくて良いですね♪」
「そ、そうかい?」
「ええ♪ なんだかちょっと以前のより仮面がワイルドで…………はぁ、はぁ、はあああ♪」
ハクオロの仮面姿を久しぶりに見たせいか。ちょっと思考が飛んでしまったエルルゥであった(まる)
「え、エルルゥ?」
「はっ!? い、いやだ、私ったら…」
口から垂れていたよだれを急いで拭き取り、エルルゥは平静を装う。
「それはそうとハクオロさん」
「な、なんだいエルルゥ?」
「さっきからなんで目を背けたままなんですか?」
「えっ!?」
「最初はなんだか舐めまわすような視線を向けていたのに、さっきからずっと私の方を見て話してくれないんですもん」
「そ、そうだったかなぁ」
「……なんだか返事もいつもより素っ気ないし」
「そ、そんなことは…ないんじゃないかな」
「……もういいです! ぷんぷん」
そう言って、エルルゥは政務室から出て行ってしまった。
(とてもじゃないが、エルルゥの姿が段々恥ずかしくなってきて見れなくなったなんて言えないよ)
そう、さっきから会話している間、ハクオロの視界にはメガネを通して見えるエルルゥの裸体があった。最初は下心丸出しで見入っていたハクオロも、相手がなにも気づかぬまま、こちらにいつも通りのなりふりで接してくるものだから、急に恥ずかしくなってしまったのだった。
(たしかにこれはなかなか楽しいものだが、使い過ぎには気をつけないとな)
っとそう考えている時に、
「おと〜さん」
「あ、アルルゥ!?」
いつの間にか入口の所にアルルゥが頭だけ出して覗いていた。
「お仕事終わった?」
「あ、ああ。も、もうすぐ終わるよ」
「おと〜さん、そのお面……」
「あ、いやこれはだね……」
(さすがに娘も同然のアルルゥをこんなもので見てはいけないな……)
そう思って、ハクオロが仮面メガネを外そうとすると、
「だめ!」
「え? あ、アルルゥ?」
「それとっちゃ、だめ!」
「いや、し、しかしだな」
ハクオロはアルルゥのあられもない姿がちらちらと視界に入って、アルルゥをまともに見ることができない。
ハクオロがそうこうしていると、アルルゥはそのまま入口からハクオロに向かってダイブした。
「おと〜さん♪」
「あ、アルルゥ!?」
「ん〜♪、それ、おと〜さんっぽい♪」
(……エルルゥもそうだったが、以外にあの仮面は私の存在の大方の部分を占めていたのかもしれんなぁ)
などと、呑気に考える暇はハクオロにはもちろんなく、ハクオロからすれば、全裸の娘が自分に抱きついているようなものなので、酷く慌ててしまった。
「あ、アルルゥ。離れなさい!」
そう言ってハクオロは少し強引にアルルゥを引き離す。
「!! …………ちがう」
「え?」
「おと〜さん、いつもとちがう」
「そ、そんなことはない、よ」
「…………もう、いい」
そう言ってアルルゥはさっさと部屋から出て行ってしまった。
ハクオロはそのおかげで、冷静に考えることができた。
(よくよく考えれば、今まで一度もアルルゥを引き離したことはなかったな。……ワルいことをしたな)
自分に少し反省するハクオロ。
「これはもうよしておくか」
そう言ってハクオロは仮面メガネを外そうとするが、
「……やっぱり、もうちょっとだけならいいかな?」
男というのはくだらないものにいつまでも固執してしまう生き物なんです。とどこから声でも聞こえたのかハクオロは仮面メガネを付けたまま政務室を後にした。
ハクオロは政務室を出たのはいいが、行先は特に思い当らなかったのでテキトウにぶらついていると、庭の方から何やら女性の声が聞こえたので足を運んでみた。ハクオロは女性の声がしたから足を運んだのである。大事なことなので二回書きました(まる)
城の庭は兵士たちの演習場も兼ねており、日頃から自発的に鍛錬に勤しむものも多い。
「やぁあああ!」
「はぁあああ!」
ハクオロの目に入ったものはトウカとカルラだった。
何度も言うようだがハクオロの目には二人は衣服などは実に着けていない状態で、武器を持って稽古をしているように見えている。
(こ、これは……なかなか……イイ)
先ほどからトゥスクルでも屈指の武士であり、また屈指の美女である二人が、まだ日も高い昼間から、激しく、ぶつかり合っている様は、なんとも言えないぐらい官能的であった。
(ま、まずい。これはたまらん。…………う、鼻血が)
ハクオロは余りの刺激の強さに、興奮しすぎて鼻血が出てしまい、必死になって鼻を押さえて、首筋をトントンしている。
ハクオロがそうこうと傍からみれば奇怪な行動をしていると、
「ん? これは聖上♪」
「え? あら主さま♪」
トウカとカルラは手を休めてハクオロに気がつき、傍に寄ってきた。
「どうしたのですかその面は?」
「あ、いやこれはな……」
そう言ってハクオロはある程度の事を説明する。
「あら、それは良い買い物でしたわね。似合ってらっしゃいましてよ主さま♪」
「あ、ありがとう。まったくその通りだ本当に」
そう言ったハクオロの言葉に深い意味があるのは言うまでもない。
「ところで、先ほどから何をなさっているのですか聖上?」
「あ、いやその、急に鼻血が出てしまってな」
「なんと!? 大丈夫なのですか? すぐにでもエルルゥ殿に……」
「い、いや大丈夫だ! 問題ない!」
「それならいいのですが……」
そう言ってトウカは心配そうに上目遣いで鼻を下から覗こうとした。
「っ!!」
ハクオロはその瞬間トウカから急いで身を引いた。
「……聖上」
トウカはいつもと違うハクオロの態度に少し傷つく。
(ああ、またやってしまった……。しかし、トウカは普段からああいう風に胸を締め付けて衣服を着ているのか……。あの少し潰れて見える巨乳も角度を変えるとあんなにすごいことになるとは…………はっ! いかんいかん)
などとハクオロは自分の葛藤に身を苦しませていると、
「ん〜? なにか様子が変ですわね? …………あら? もしかして主さまったら、私たちが打ち合ってるのを見て何かよからぬことでもご想像したのかしら♪」
「う!?」
カルラは妖艶な笑みでハクオロの核心を突く。
「あら? 図星ですの? もう、そんなに溜めてらっしゃるなら言ってくだされば、いつでもお相手いたしますのに♪」
「またれいカルラ殿! それでしたら私が聖上のお相手を……」
「……なんだか、主さまが帰ってきてから随分積極的になりましたのね、トウカ」
「い、いや。某はただ、立派な子を授かってエヴェンクルガの繁栄をと……」
「そう言いつつ未だにお子授からないのは、楽しんでいるからではなくて♪」
「な、な、なぁにぃを申す!」
「まぁ主さまは私にメロメロですから心配することもないですけど、ねぇ主さま♪」
そう言ってカルラはハクオロの腕に自分の胸を押しつける。もちろんハクオロにとってはそれでだけでは済まないだが。
「わ、わあああ!」
ハクオロはその感触と眼福に耐えられなかったのか、急いでカルラから身を引く。
「………………」
そのハクオロの態度にカルラは酷く狼狽する。
こういう冗談は何度もしてきたが、ここまで強く拒絶されたことはないからである。
「あ、いや、その…………すまん!!」
そう言ってハクオロは急いでその場を逃げ出した。
「んん〜、また要らぬ誤解を招いたかもしらないな」
そう言いながらハクオロは城内を懲りずに歩いている。そうしていると、
「あ♪ ハクオロ様」
「おろ〜♪」
後ろからクーヤとサクヤが声を掛けてきた。
「あ、ああ二人とも今日は散歩かい?」
先ほどのトウカとカルラの物凄いものを見たせいか、ある程度耐性がついたおかげで、割りかしまともにこの二人には対応できるハクオロであった。
「いいえ、今日はウルトリィ様とカミュ様の所に御呼ばれされてまして」
「そうなのか。二人にサクヤたちの部屋に来てもらった方が良かったのではないか?」
「最初はそうおっしゃられてたんですが、私も少しずつ足を直さないといけないと思って、お断りしたんです」
「そうだったのか……」
「それよりそのお面は?」
「ああこれは……」
先ほどと同じ説明をサクヤたちにする。
「へぇそうだったんですか。とても良くお似合いですよ♪」
「そ、そうかありがとう」
(それにしても、足を直そうと生活の一部から徐徐に改善して、クーヤのお世話も一緒にしていて、……サクヤ)
ハクオロはそんな健気な薄幸少女サクヤがとてもかわいらしくそして愛らしく思えてきた。
特に、先ほどからおぼつかない足取りで廊下をあらわもない姿で歩いている様なんかはハクオロにとってとても、
「ぶっ!」
「わ、わわわあ。大丈夫ですかハクオロ様!?」
余りのストライクゾーンについつい鼻血を再発させてしまったハクオロであった。
「い、いやなんでもないよ。大丈夫」
「そ、そうですか? でも一応お休みになった方がいいですよ。ウルトリィ様のお部屋でお休みさせていただきましょ」
「あ、ああそうだな」
ハクオロは素直にサクヤの申し出を聞いてついて行くことにした。
「おろ〜♪ ぶううう♪」
「クーヤ様ダメですよそういうことを言っちゃ」
なんだか少し自分を情けなく感じるハクオロであった。
「すみません。ウルトリィ様」
「待ってたましたよ。どうぞ」
そう言ってサクヤは戸を開ける。
「まぁ一体どうしたのですか?」
「それが、そこで鼻血を出してしまわれまして」
「まぁ大変大丈夫ですか?」
そうしてウルトがハクオロに近づくが、ウルトの凶器的というかハクオロにとっては原爆並みの攻撃力を持ったメロンが二つ……
「ごぶ!」
「きゃあまた!」
「大変! カミュ治癒術を手伝って!」
「うんわかったお姉さま」
そういってカミュも近づくが、ハクオロにとってはどっかの世界のフレ○ヤ級の破壊力をもったスイカが二つ……
「ごぶーーー!!」
「きゃあ! こんなに!」
「大変! 急いで治癒術を」
「うん! おじ様頑張って!」
その声を聞いてハクオロの意識は遠のいていった。
「ん、ん? ここは?」
「気づかれましたか?」
「どわ! ウルト!?」
ハクオロはウルトの膝の上でどうやら船を漕いでいたらしい。
「……そんなにあからさまに驚かれますと、傷つきますわ」
「す、すまん」
「おじさま大丈夫ぅ?」
そう言って後ろからカミュが声を掛けてくる。
「あ、ああ大丈夫だよ」
「ん? なんでこっち向かないの?」
「あ、いや、ちょっと頭がまだはっきりしなくてね、ははは」
嘘である。正直これ以上の刺激は理性の崩壊しか招かないと判断したからである。
「それにしても、一体どうなされたのですか?」
「ははは、最近政務をこなし過ぎたせいかな、ははは」
「適度に休息をとることも大事なお仕事ですよ」
ウルトは母が子をたしなめるようにハクオロに言う。
「今度から気をつけるよ」
「それにしてもおじさまそのお面どうしたの?」
「あ、ああこれは……」
省略
「へぇあの人そんなのまで扱ってるんだねぇ」
「でもこれは、その、すごく良いですね♪」
「うんうん♪ やっぱりおじさまはこういうお面がよく似合うよ♪」
「ああ、この面を見てると初めてハクオロ様と過ごした一夜が、っていけませんわそんなこと」
ウルトはヤンヤンと体をモジモジさせて完全に自分の世界とこんにちわをしてしまったらしい。
「それじゃあ私はこれで」
そういってハクオロが部屋を出ていこうとすると、
「ええー、おじさまもうちょっと一緒にいようよ〜」
そう言ってカミュが抱きついてくる。
「わ、わわわわわわわわ」
ハクオロはまるで怯えるかのようにすかさずカミュと距離を取ってしまった。
「…………ふぇ」
そんなハクオロの態度にカミュは泣きそうになる。
「あ、いや、今のはただ驚いただけでな、別に、なんというか」
そうこうハクオロがあたふたしていると、
「ハクオロさん大丈夫ですか!?」
エルルゥが飛ぶように入り込んできた。
(え、エルルゥ!? くっ、正直これ以上は身が持たん!)
「私は大丈夫だ! そう言えばやらなきゃいけないものがあるからしばらく私の部屋には誰も入れないようにしてくれ」
「え!? ちょっとハクオロさん!」
そう言ってハクオロはそのまま禁裏の方まで一直線で帰って行った。
「ふう、正直これがあると身が持たないな……」
ハクオロは今日はその後夕食も取らずに禁裏に籠っていた。
「確かにこれは良いものだがそのせいでだいぶ皆を心配させてしまったしな。もうこれはしまって置くか」
そう言ってハクオロは仮面メガネをしまおうとするが、
「う〜んやっぱりもう一度だけちょっとつけてしまうか」
片付けようとしたものを一回手にとって遊んでしまうのは人としてよくあること。
「全く大方あの研究所で作られたメガネなんだろうが、くだらないものを作ったものだな本当に」
そんなことを言っていると、
「ハクオロさん……」
「!!」
急に声を掛けられてハクオロが振り向くと、そこには女性陣(サクヤとクーヤはいないらしい)がいつの間にか禁裏に入ってきていた。
もちろんハクオロは今、メガネを付けているので、今見える光景はまさに桃源郷。
「うわわわわわあああ!」
そういって、ハクオロは部屋の隅までもうスピードで移動した。
「「「「「「………………………………」」」」」」
女性陣はその様子を見てすごく傷ついた表情を見せる。
「!?!?!?」
ハクオロは気が動転していていまいち理解ができなかった。
「…………やっぱりですね」
「え、エルルゥ」
「ハクオロさん、私たちのこと避けてますよね……」
「!?」
「今日は様子が変だったってみんなで話していて、夕食もみんなでいつも食べているのに今日は来なかったし、もしかしてハクオロさん、私たちのこと嫌いになったんじゃないかって話になって」
「そ、そんなことはな……」
「じゃあなんでさっきから目を合わせてくれないんですか!!」
「!?」
「それだけじゃないです。今だって私が声を掛けただけでそんなに怯えて……うぅ」
「…………」
ハクオロは愕然とした。自分の浅はかな行動がどんなに彼女らを傷つけたかを。
「おと〜さん、アルルゥのこと嫌い?」
「おじさまぁ……」
「某は聖上が望むのなら、別に、なにも……望みませ、ぬ」
「………………」
「ハクオロ様」
ハクオロは自分が情けなくて仕方がなかった。こんなメガネで浮かれて大事な者たちを蔑ろにしたことが。
「………………」
ハクオロはおもむろに仮面を取って自分が今なら言える気持ちを素直に言った。
「エルルゥ」
「……はい」
「君はいつもみんなを思って接して、自分がつらい時も決してそれを他人に押し付けたり、責めたりしないで、それでいてなお私たちを支えてくれている。私はそんなエルルゥが時折甘えてきてくれることが、とても愛おしくて仕方がない。……愛してるよ」
「ハクオロさん」
「アルルゥ」
「……」
「アルルゥはいつも甘えん坊だし、エルルゥの言うこともあまり聞かないね。……でも、それでもアルルゥのその元気な笑顔と友達思いのやさしいところが私は大好きだよ」
「おと〜さん」
「カミュ」
「うん」
「カミュはいつも勉強は逃げ出すし、いたずらもよくする。……でも、そんな楽しい光景が当たり前のことだと思わせてくれたのはそのカミュの無邪気で純粋な心が私たちを温かくしてくれているからなんだ。ムツミという存在だけじゃなく私はカミュのことが大好きだよ」
「おじさま♪」
「トウカ」
「聖上……」
「自分の使命を全うしようとするその真っ直ぐさ、エヴェンクルガとしてのその道を歩む君にいつも私は助けられていた。しかし、日常ではついうっかりしたことで危なっかしいところもある。だから今までもそしてこれからも私の傍にいてほしい。そして私にもトウカを見守らせてほしい。主従の関係は抜きにして」
「聖上ぉお」
「カルラ」
「はい」
「君は自分の過去のことを多く語らない。正直に言えば私はそのことを知りたがっている。……でも今は、それ以上にカルラはまた昼間から酒をあおっているのかとか、また倉庫の食料を勝手に拝借したのかなどと事あるごとにお前のことをつい想ってしまう。それはきっとすでに私の中でカルラという存在がとても大事で、大きなものとなっているからなんだと思う。これからきっと……いや絶対にこの気持はもっと大きなものとになる。カルラが大切な人だから」
「なんだかいつも食っちゃ飲みしてると思われているのですわね私♪」
「ウルト」
「……はい」
「初めてみた時から君のことは美しいと思っていた。……しかし、それ以上にけして権力で物事を解決しようとしない高潔さに加え、誰にでも慈愛をもって接する君をみて、外見以上に君の美しさに私の心は惹かれていった。正直に言おう。私は君が他の男性と会話をしているだけでも嫉妬してしまうし、誰にも君を渡したくない。ずっと私の傍にいてほしい」
「大丈夫です。私の心はもうハクオロでいっぱいですから♪」
全員に言い終わって、ハクオロはとても落ち着かなくなる。
「な、なんだか、ものすごく、恥ずかしいことを言ってしまったな……」
そうは言うものの本心なのだから誤魔化せようがないのである。
「は、ハクオロさんったら私のこと、あ、『愛してるよ』だなんて、もう!」
エルルゥが傍に寄ってきて、ハクオロの肩を軽く照れ隠しに小突く。
「おと〜さん!」
アルルゥはハクオロに抱きついて思いっきり甘える。
「あ、アルちゃんずるい♪」
カミュもアルルゥと同じく抱きついてくる。
「そ、某は聖上が、お望みに、なるのなら、その、いつまでも、……お傍に」
トウカはハクオロに着かず離れずの位置でごにょごにょを照れる。
「主さまったら、早くこの事をおっしゃってくれれば、もっと甘えさせてあげたのに」
カルラはハクオロの背中に寄り添う。
「『誰にも君を渡したくない』なんて、……私の心を引きとめる為にも早くお子を下さいませね」
ウルトは珍しく甘えるようにピトっと寄り添って耳元で囁く。
ハクオロは誤解が解けて良かったっと思いつつも、まだ自分の言葉に照れている。
「ところでハクオロさん。今日はなんであんなに私たちを避けてたんですか?」
エルルゥの言葉に一同がシンと静まる。
(ど、どうしようか。本当のことなど言えないし)
「え、ええっとそれはだな。ほら、改めてみんなのことを考えたら、新たな魅力に気づいて、恥ずかしくなったというか」
「「「「「「………………」」」」」」
(うっ、苦しいか!?)
とハクオロは思ったが、
「やだもうハクオロさんたら」
「面と言われますと恥ずかしいですわね」
「せ、聖上、そ、それがし、魅力な、なんて」
「やだぁおじ様。アルちゃんどうしよう魅力だって」
「アルルゥも魅力ある?」
「あ、ああもちろん。ちゃんとアルルゥにも良い所いっぱいあるよ」
「んふふ〜♪」
(どうやらなんとか誤魔化せたようだ……)
などとザ・ジゴロのハクオロが考えていると、
「ささ皆さんもう夜も遅いですし、お部屋に戻りましょう」
っとウルトが言うと、皆もそう考えたのか大人しく出ていこうとしたが、
「ほらアルルゥ行くわよ」
「や! 今日はおと〜さんと寝る」
ピシッ
そう、こういう一夫多妻的な関係には簡単にヒビが入ることが多々ある。
「アルルゥ〜、何言ってるのぉ、早く来なさい」
「や! エルンガーは外、アルルゥは内」
「だ、誰がエルンガーですってえええぇぇって、何してるんですかカルラさん!」
「何って、主さまが寂しがらないように添い寝ですわ♪ もちろんそれだけじゃないですけど」
「なに堂々といっちゃてるんですか! ウルトさんも何か言ってください! ってあれ?」
「さぁハクオロ。元気な子をくださいまし」
「だぁあ! ウルトさんまで何言ってるんですか!」
「エルルゥ、アレだけ雰囲気が出た後に、よくよく考えれば独り寝なんてできないですよ。ここは私のハクオロにちゃんと責任を取ってもらわないと♪」
「あらぁ? いつから主さまは貴女のものになりまして?」
「もうこれは運命ですから♪」
「せ、聖上、ならばそ、某にも、エヴェンクルガの繁栄のためにも元気な御子をくだされ!」
「お前たちちょ、ちょっと落ち着くんだ!」
「おじさまぁ。どうしよぉわたしなんだんか火照ってきちゃった」
「な、カミュちゃんどこでそんな誘い方を」
「おじさまもこんなおばさんたちより私やアルちゃんみたいに若い子がいいもんねぇ〜」
プチっ
「か、カミュな、なんてことをいうんだ! 早く訂正しないと!」
「別にぃ。本当のことだし♪」
ブチッ
「カミュちゃん。世の中には言っていいことと悪いことがあるのよ」
エルルゥの顔は明らかに笑っていない。
「はぁ、カミュをちゃんと教育しなかった私にも責任があります。……ここはちゃんとお仕置きしないと」
そう言ってウルトは詠唱の準備に取り掛かる。
「なら、私の軽〜い拳骨で許してあげますわ♪」
※カルラの拳骨は軽く人を首を飛ばします。
「やれるもんならやってみればいいよ。私には『アマテラス』があるもん!」
「ちょ、ちょっとカミュさん!?」
「大丈夫おじ様。ちゃんと制御はするから♪」
まさに一触即発の状況。時すでに遅し、そんな状況に奇跡が起きた。
「…………なんでみんな裸ぁ?」
「!?」
それは、ハクオロの仮面メガネをつけたアルルゥの言葉だった。
「裸? 何言ってるのアルルゥ私たちみんな服を着てるじゃない?」
「ううん。はだかぁ」
「どういうこと?」
そういってエルルゥがそれをつけると、
「え、ええええええええ!? なんで!?」
エルルゥは驚愕の色を隠せない。
「ちょっとよろしくて?」
そういってカルラが付ける。
「これは! ……なるほど、主さまはこれで私たちを見てたのですわね」
カルラはそう言って、次々に女性陣にメガネを渡してゆく。
「(汗)(汗)(汗)(汗)(汗)」
ハクオロは嫌な汗が止まらない。
「確かに、これでは私たちの魅力の虜になってしまいますわね(怒)♪」
※ちなみに感情がわかりやすいように感情を書かかせてもらってます。
「ええ、もう、ほんとにこの人はどうしようもないんだから(怒)♪」
「私のだけならまだしも他のみなさんのまで、ふふふあら? 笑いが止まらないわ(墳)♪」
「おじさま、……これはちょっと引くかも(悲)」
「せ、聖上が、そ、某の、は、裸を……き、キィーーーーー(激)」
「は、話せばわかる! 聞いてくれ! こ、これは純粋な気持ちで行ったことで、け、決してやましいものでは! あ、アルルゥならわかってくれるだろう?」
ハクオロが最後の助けをアルルゥに助けを求めると、
「おと〜さん……」
「アルルゥ……」
「へんたい」
その後、ハクオロにはこっ酷いお仕置きにより、紫琥珀でも直せない名誉の負傷を負ったとか。
もしこの作品が面白かったとか誤字脱字発見!みたいのがあったらポチっと押してコメント下さいww
あとがき
お久しぶりです。行天です。
このサイトも立ち上げてからすでに一年の月日が経ちました。
うたわれるものをアニメで見て、そしてゲームを買って、すっかりメロメロになってしまって、勢いだけでなんとかやってきました。これもすべてビジターのみなさまのおかげですw
今回の作品を書くにあたって、僕のブログの方に「通りすがり」さんという方が、このような一言を書いてくれたのが始まりでした。
>>こっちで書いていいかわからんけど うたわれのSSまだですか?
こんな弱小サイトにもちゃんとビジター様がいることがわかっただけでも本当にありがたいことと思いました。
そして、そのこともあり僕は単純な性格なので、昨日の、正確には今日の朝3時から8時までかけてある程度の草案を頭の中で練って、後は勢いで書き上げました。
自分が持っている字数カウンターに引っ掛けてみたところ、原稿用紙60枚分、総字数10929文字と大変なボリュームになってしまい、正直ちゃんと文章になっているのか心配です。
久しぶりにロングな文章を書いたから、多分自分でも気づいていないミスやらなんやらがあると思いますが、できれば許していただければ幸いですw 誤字脱字の多い作者でご迷惑おかけします。
それではこのサイトをご利用いただいてくださっている皆様に最大の感謝を込めて。
2008年10月31日 行天 大翔