ピンク色は絶望色
高校二年の春、それは一年の時の初々しさはないものの、未だに新しいクラスで友達がほしいとか、部活で活躍するぞとか、彼女を作っちゃおかなとかなんかいって期待をふんだんにまき散らしたりして、学年上がったんだから俺の方が一年より偉いんだぞ的なことを三年の存在なんか気にしないで自己陶酔に陥って始まる。
俺も例外なくその法則に則り、一個下の彼女とかほしいななんて思いながら春休みを妄想にふけって過ごしたりなんかいていた。別にいいじゃないか。たった三年間の高校時代、しかもすでに一年経過しているのだ。一年の時にできなかったことを悔やみながら新しい未来に妄想したって。俺だって寂しいんだ。夏は特にバイトもしないでぐぅたら過ごし、二学期からは頑張るぞっと決めた勉強も二日で面倒になり一人で放課後のゲーセンに入り浸って逆に成績を落としたり、冬は冬で親族との交流を深めるんだっと言いながら、実はただ単に初詣に行くような献身的国民の友達がいないだけ、そしたらいつの間にかに終業式になってたこの寒い青春。
だから休みの間に、普段から興味がないから読まないメンズファッション誌を買って来て一日中ワックスでカッコイイ髪型の研究したり、女にもてるスプレー使ってどの位の量が異性を引き付けるのか妹で実験して雑誌を投げつけられたことにもめげず、「これでおとせ! 女性が弱いセリフ百選」を必死に暗記したりしていた。
いよいよだ。俺の新たなる旅立ちの時だ。
「おーい、多喜ぃ〜」
誰かの呼び声が聞こえた。俺を呼ぶのは誰だ。振り向くと向こうの方から何やら走ってくる奴がいる。背丈が高く目立つ。髪はほうき頭の黒髪で背丈を余計に高く見せる。履きつぶされたコンバースとぺったんぺったんとこちらに駆けてくる。
(あぁ大村か)
距離が30メートルぐらいになってわかった。俺の数少ない友と呼べる者の一人で、それなりに仲の良い方の部類に入る奴だ。ははっ、朝から元気の良い奴だ。全くあいつがクラスで「救世の遇神」など呼ばれているのが不思議なくらいだ。
あれは去年のことだ。臨海学校という歴史に置き去られた習慣を未だに熱心に行っている我が校は、嬉しはずかしの女子との海水浴を楽しみしていた男子生徒の期待を裏切り、男女別々に行われた。当時、男子生徒の全員が「なぜだ!」とか「神は俺らを見放したのか!」などと悲痛な声をあげていた。もちろん俺も泣いた。三度の飯よりスク水女子が大好きな俺は泣いた。激涙、汗涙、血涙だった。理由は単純なことだった。去年のクソ先輩方が女子の着替えを覗き、そのせいで更衣室の板が外れて、大量の臨界点MAXの男子生徒が更衣室になだれ込んできたからだ。
女子生徒は鬼神と化し、次々と男子生徒の目をつぶし、鼻を蹴り、耳の裏をチョップし、膨らんだ下半身を二人掛かりで凹まして、計十人の男子生徒は心半ばに戦場に散った。おかげで翌年の一年、つまり我々は女生徒の濡れた肢体を見ることができなかった。後にその先輩たちが残した言葉は、「もうこの現《うつつ》には女性はいない」と、まったくもっていい気味である。
そんな我々が昼間散々海で遠泳をしてへとへとになり、また明日の遠泳に絶望していた時、生徒Aがついに発狂し、「女、女の体が見たい、あの濡れた肢体を拝みたい」と言い始めたとき、神の産声を聞いた。
「熟れた肢体なら見れるよ」
会場(寝室)に戦慄が走った。
「大村今何て……」
「え? だから熟れた肢体なら見れるよって」
それを聞いた生徒Aが鼻息を荒くし、
「それは本当か!」
「あぁうん。ちょっと待ってて」
そう言い終わると、テレビと携帯を奇妙な線で結び始めた。そして、
「オッケー。それじゃ始めるよ〜」
そう言って大村がテレビのボリュームをゼロにして携帯のボタンを押すと……、そこには「楽園」という名称が相応しいいホテルの一室と男女が映し出された。この後のことはもうゆめまぼろしの如く覚えていないが、少なくとも我々の前には「救世の遇神」が御降臨された。
その出来事からこいつとは仲良くなっておこうと思い、自分から友達をつくる行為をあまりしたがらない俺だが、頑張った。その後の付き合いから、大村は純粋なエロであるというのと、恥という観念がない奴だと知った。だから俺はヤツことを「エロテロリスト」と呼び改めている。そしてこの改名手続を男子女体崇拝連合議会において立案したい。たぶん保身的大村崇拝者一同によって廃案されると思うが……
大村がこちらに向かってくる。こいつは貴重な財産だが、俺の新しい門出にはあまり相応しくない。
(しばらく話しかけるなとでも冷たく言い放っておくか)
そう思って大村が来るのを待っていると、あいつが何か持ってそれを振り回しながらこちらに向かってくることに気づく。なんだあれは? そう思いながら目を凝らしてみると、んなっ! やばいそれは持ってくるな! 個人的には嬉しいいが場所とか雰囲気とかがマズイ。
場所は校門前、雰囲気は新一年生いっぱい、新二年生もいっぱい、新三年生もいっぱい、しかも九割九分九厘が女生徒――
これは何フラグだ!? どうする逃げるか、しかし足が動かない、寂しい春休みによって俺のメランコリー状態を打破してくれるものが目の前にあるからなのか? 動け、動け、動いてよ! しかし、現実はやはり厳しい。俺の足は五寸釘が穿たれたかのように動かない。
そして、大村が俺の目の前にきた。
「はいこれ、前から見たかったんだろ!」
手渡された「ロリロリ女子高生3月号〜純白が汚れるとき〜」によって、俺の新たなる旅立ちは家を出て三十分で幕を閉じた。
終わりFin
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(C) 2007 Gyouten Taisyo