ヲタいばあちゃん




 俺はオタクになった。


 正確にはなったのは昔、今は現在進行形だ。オタクといってもその言葉の前に名詞が入るだけで、性質が変わってくる。アニメ・マンガ・ゲーム・フィギュア・声優などと「オタク」の前に置くことで、より一層自らの趣向を強調する。だから「オタク」というのは、趣向の強度を測る言葉であり、けして穢れた言葉ではない。っと勝手な自論で現実逃避、オタクという部類に自分がいることに恥じて腹立たしいのが現状だ。っとちょっと一般人になりすます。だれもが経験するのだろう。隠れオタクとして。


 俺も例外ではなかった。学校では話を合わせるために授業がつまらないという寝るための口実や「難しかった・量が半端ない」と友達に言うが実は要領よくこなしていた宿題や授業の内容が理解できず、自分の頭の乏しさを隠すために、陰口を叩かれる教師の話を永遠と繰り返し、はぶられないように尽力してきた。外で他人からオタクと認識されないようにビジュアルに凝った服装をして、髪もワックスでガチガチにキメて、リュックなんかもマイナス点と思ってプラケースの手提げに変えた。


 しかし家では転じてみすぼらしいTシャツを着て、その上には千円で買ったフリースを着込む。本棚の大半がマンガであり、一部のスペースを使って最近アニメ化したキャラのフィギュアを置いている。天井の隅を使って、俗に言わなくとも萌えキャラと呼ばれているキャラの際どい視点から描写されているタペストリーが飾ってあり、掲示板やブログをするためにPCなどの情報機器関連もちゃんと備えられている。


 俺は隠れオタクなのだ。オタクというのを恥じているが捨てられないでいる境界人だ。


 あるマンガで、オタクというのはなろうと思ってなるのでなく気づいたらなっている。とあった。大半の人はそうなのだろう。それがむしろマニュアル通りのオタク道なのだ。しかし俺は違う。いつの間にかなっていたのでなく、俺はオタクになった。いや、むしろ俺は製造された。そう、あのバアチャンによって――









〜10年前〜


「明けましておめでとうございます」


 元旦の朝、幼い俺は今では想像できないような純粋さ、と言うよりか無垢な子供だった。そして、大抵そういう子どもはお年玉目当てに大きな声で元旦の朝に決まりきった挨拶をする。


「明けましておめでとう健二」


 母親はそんな俺に少し上機嫌に答えたのが印象にある。



「健二おばあちゃんにも明けましておめでとうしてきなさい」


 母親がそういうと、


「は〜い」


 俺は素直に従った。



 大人になるにつれて少しわかったことがある。それは、子どもと言うのは自分の誕生日とクリスマスとお正月には親の言うことを素直に聞くということである。子どもと言うのは大抵、クリスマスにはサンタという名の父親がいることを知っていて、クリスマスが近づくに連れて父親の言うことを素直に聞くという傾向がある。お正月や誕生日もそうだ。近付くにつれて親の言うことをよく聞くようになる。特に12月は子どもにとってはおいしい月だから親のいうことを聞くのなんの。今更だが、師走を言う言葉は子どものためにあるのではないだろうか。戯言だけど。



 そしてその法則を幼少の俺は素直に守持っていた。素直……まさに子供のためにある言葉だ。……おっと脱線。


「おば〜ちゃん」



 そういって自分の祖母の部屋に入る。祖母の部屋は何というか小さい俺にとっては飽きなかった。カッコカワイイ人形やゲームやマンガなど、ともかく子供の好奇心をそそり立てるものが多かった。俺が部屋に入ると祖母はカタカタなる板を必死に打ち込んでいた。こういうことをしているばあちゃんには昔から声をかけずらかった。しかし、その時の俺は気付いてほしい。もとい、いち早くお年玉がほしいと思っていたので、がんばって声を掛けてみた。


「おば〜ちゃん。おばぁちゃん」



 その声に気づいたのか祖母は青く光る画面から顔をこちらに向けた。


「おや、健二かい。どした?」


 祖母は割と朗らかに笑顔を返した。それに安心して俺は目的を果たすため、



「おば〜ちゃん。明けましておめでとうございます」


 と大きな声で謹賀新年の挨拶をした。



「おおぉお〜健二はいつも元気じゃのう。はいはい明けましておめでとうございます」


 祖母はいつも元気な孫のことが自慢のようにほめてくれた。しかし、それまで俺を見ていた優しい顔が一転して、考え込むような表情になる。


「今年はショタ系で攻めるかのう……」


 祖母は呟くように言った。当時の俺はそんなこともわかるわけもなく、祖母にその言葉が意味するものを尋ねてしまった。


「おばあちゃん。ショタケイってなに?」


 すると祖母の顔は金曜日によくやるアニメ映画に出てくるようなばあ様のニヤ〜っと笑った顔になった。


「≪ショタ系≫ってのは、健二みたいに元気でかわいい男の子のことじゃよ」


 そういうと祖母は優しく俺の頭を撫でてくれた。


「えへへへへ〜」


 くっ、何喜んでやがる当時の俺、お前はまた一つとんでもないことを植え付けられたんだぞ! 今の俺は当時の自分の無垢さを恨むしかなかった。



「そうじゃ。健二にお年玉をやらんとのう」


 祖母は俺がせがむ前に意を察してくれたらしい。


「む……いかん。冬コミで今は手持ちがなかったんじゃ。健二残念じゃが……うっ」


 祖母はうろたえた。それは、俺が期待に満ちた潤い120%の目で祖母から手渡されるだろうお年玉を待っていたからだ。


「う〜む何かないか。何か……孫の好感度が下がってしもう……」


 そんな俺を見た祖母は机や床にあったプラケースを必死になって探し始めた。ガチャガチャとプラスチックとプラスチックのぶつかる音が部屋のBGMになっていた。


「………………おっ!! これなら良さそうじゃな」


 そう言って祖母はわざと俺に見えないようにその見つけた「箱」を俺の目線より少し高く上げた。こういう仕草は子どもには堪らなくもどかしくもあり、好奇心を沸かせる。


「健二、ちっちゃい人形は好きかい?」


「うん。好き〜」



 ……おい、引くなよ。別に男が人形遊びしたって許される年齢だったんだ。俺は祖母のその問いに即答したことを今でも覚えている。


「ふふふ。よ〜しばあちゃんからのお年玉じゃ」


そして、焦らしに焦らして祖母はついにその箱を俺にくれた。


「わぁ〜すげぇ〜人形でいっぱいだぁ〜」


 きっとその時の俺の目の輝きは24カラットのダイヤモンドでさえそのきらめきには勝てないほど輝いていただろう。その箱の中にはいつも親にせがんでも回させてもらえないガチャガチャの未開封が山ほどあった。俺はガチャガチャを回して楽しむより、その中のもののほうが好きという世知辛い子供だったので、それは夢のような箱だったに違いない。


「すげぇ〜おばあちゃんありがとう!…………でもおばあちゃん。なんで同じのばっかあるの?」


「うっ……」



 そう、その箱の中のガチャ玉はほとんどがダブっていたのだ。要はコンプリートのために散った戦友たちだ。しかし祖母はうまいことを考えたらしくこう言った。


「それは健二が一個壊しても大丈夫なようにだよ」



 ……くそ、ばあちゃん。そんなのズルすぎるじゃないか、当時の俺にとっては。


「そうなんだ! ありがとう! おばあちゃん!!」


 不覚にも小さいながら感動した俺は持てるすべてを吐き出すかのように感謝した。


「健二……」


 祖母もそんな健気な孫の姿に感動もとい、罪悪感を感じたのか、少し躊躇いがちな顔をした。


「そうじゃ。これも健二にあげような。ぬり絵にでもするとええ。それにお年玉も今度あげるからのう」


 ご老人の孫好きは万国共通らしい。祖母はもう一つお年玉という表題を付けられた本とそしていつかは分からないが不確定な金銭譲渡をしてくれるというのだ。幼い俺が喜ばないはずがなかった。


「やったー」


 祖母から俺は新たなお年玉をもらった。なんて、定番な喜び方をする子供だったのだろう俺は。
そして、始まりの零音はすでに鳴っていた。



「ねえねえ、おばあちゃん」


「なんだい健二?」



 本当に、つくづく俺の無垢さに呪われる。


「なんでこのぬり絵、男の人と女の人がハグしてるの?」


 青いたぬきのようなロボットのOPの影響で「抱き合う」ことを「hug」と俺は呼んでいた。
祖母は意外なことにその無垢なる質問にうろたえはしなかった。


「それはね健二……アダムとイヴだよ。だから愛し合っている二人が抱き合うのは当然だろう?」


「そっかー」


 おい俺! てめぇ何納得してんだ! 騙されてるぞ! 目を覚ませ!! ばあちゃんもなにうまいこと言ったモレみたいな顔してんだ!! そして、罪深き無垢は人生最初の大失敗(ぶらんだー)をしてしまった。


「じゃあ、こっちのぬり絵はなんで男の人同士が抱き合ってるの?」


「それはね健二……」


 言うな! 言わないでくれ!


「その二人はね……」


 何ニヤついてやがるばあちゃん!! やめてくれ!!



「愛し合ってるんじゃよ」


 え? 思っていたよりも大したことないじゃないかって? とんでもない!! その頃の俺にとっては大問題だったんだ。なんたって無垢な俺は、



「じゃあ、男の人同士でも愛し合えるんだね」


 って思っちゃったから。



「そうじゃよ。愛の前では性別なんてものは存在しないんだよ」


 何語ってんだよ!? そんなこと子供の俺が理解できるわけねぇだろ! この婦老腐子(ふろうふし)が!!


「そっかー。愛ってすごいんだね!」



 理解しちゃったよ……


「ふぉふぉふぉ。健二も愛に生きるんじゃよ」


「うん!」


 もう好きにしてくれ……












「……ところで健二、その本のことはお母さんたちには言っちゃダメだよ。お年玉は他の人に言っちゃうとなくなっちゃうんだ」


 しかもしっかり保険までかけてやがった。




こうして俺は度重なる祖母の教育(?)のせいで現在オタク家業を初めて十年になる。













今日も朝には日が昇る。俺的感覚では西から昇るその太陽が。


『拝啓 おばあ様

 お元気にしていますか? あなたがココを発ってから早一ヶ月になろうといています弟たちも相変わらずこちらの目がバーナーで焼かれるかの如く天真爛漫に無垢に育っています。あなたが教えてくれた数々の遺恨。真に感謝を通り越して憤りを感じております。しかし、今日はそんなあなたに喜ばしい報告があります。最近、リアルで好きになった子がいるのですけれども、なんとデートの約束を取り付けることができました。もう僕は大丈夫です。安心してそちらでお休みになってください。』



ふう、これで明日は心おきなくデートに行けるぜ!!



「ただいまぁー」



「ばあちゃん!? どうしたんだよ。今年はE3に行くからアメリカに行くって言ってたじゃないかよ」



「孫よ。あまり『イク』とか『イッテ』なんて言葉は使わない方がええぞ。誤解される」



「バンピーにはそのネタ通じないから!! ってか話しそらすなよ!」



「何を言っとるんじゃ! 明日は三日目じゃろうが! これだけはたとえ人類補完計画が実行されても欠かすことはできん!」



「人類補完計画って何年前の話をしてるんだよ。今は2018年だぞ……」



「かぁーわかっとらん! 名作は何年たっても世界共通用語と相場が決まってるんじゃ!」



「もう好きにしてくれ……」



「何を言ってるんじゃ。お前もワシに付いてくるんじゃ!」



「いや、俺明日一緒に回るやついるから……」



「なに? 誰じゃそれは?」



「友達だよ」



「……ふむ、男か?」



「はぁなんで男とコミケ行かねぇと行けねぇんだよ」



「……普通は同姓と行くんがほとんどなんだがのう。ならいつも通り女子か?」



「いや、好きな女の子だけど」



「なんかお前はコミケにいる大半を敵に回しそうじゃのう……それにデートにコミケとは……我が孫ながら良いフラグを立ておる」



「別に女の子と行くだけじゃん……それに異性で二人で行くんだからデートだろ」



「なんていうかお主も個性的と言うか。ありえんキャラというか……」



「ともかく、俺はばあちゃんとは一緒にいかねぇ」





「ふむ……わかった」



「なんだよ。今日はやけに引きがいいな」



「いや何、せっかくばあちゃんがアメリカ土産に『れ@とれーだー』のパチモンを買って来てやったのに、おしいことをしたのう」



「うっ……@とれのパチモン…………」


 未だにフィギュアの呪いに掛かっている俺は喉から猫の手(肉球付き)が出るくらい欲しい。



「もし、お主とそのおなごと一緒にわしを連れてってくれるんならタダでやらん事もない」



 ったく敵わねえ ばあさんだよ全く。



「今電話してくるよ……」



「ふぉふぉふぉ」












 冒頭と俺の考えが違うじゃねえかと思ったやつ、あれは俺が高校生の時の話だ。今の俺は大学生。それ系のサークルに入れば怖いもんなんてないのがこの世の理ってやつさ。気にすんな。必ず、お前の趣味を理解してくれている奴はいるよ。そう今思えば、うちの「ヲタいばあちゃん」が俺にとってそういう位置にいるのかもしんねぇな。では愛すべきもまえらにビバ・ヲタライフ!!




あとがき
 はい、すいません出しゃばり過ぎました。正直言いますと冒頭の部分これ一年前に書いたものです。今日、バイトから帰って来てPC立ち上げたあと、ファイルやらUSBの整理をしていたら、懐かしいかなこのオタクに強く憧れていたころの僕がいました。僕は、アニメやラノベにマンガとかは大好きで大好きで仕方ありません。でも同人誌には興味無くお金を出す気もしなく、エロゲーも高校の友達に貸してもらったもの一個でお腹いっぱい……、フィギュアも作るのは好き(プラモのこと)だけど買うのはイヤ。コスプレは恥ずかしくてとてもとてもw と言うわけで、いつまでもオタクになりきれない僕ですが、過去の清算と未来への想望を込めてこの作品を復活させました。読みにくい部分がやったらめったらあるかもしれませんが、そこはとっても広い目で見てやってください。ついでに僕はオタクを貶すようなことはしない主義の人なんで。最後にこの作品を読んでいただいたすべての方に感謝いたします。

2007年8月12日  行天大翔



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(C) 2007 行天大翔

※この文章はあくまでフィクションであり、実際にある人物・事物・事象を侮辱したものではありません。
※この文章で使われた用語の無断転記は止めてください。いろいろと問題が起きると困るんで……
作品を読んでいただいたのに注意書きばっかですみません。しかし、ネットマナーを清く守るサイトを目指して活動していますのでご了承ください。